最初に決めるのは「自社の管理のやり方が標準的かどうか」

顧客管理システム(CRM)を選ぶとき、最初に考えるのは、自社のお客様の管理の仕方が一般的なやり方に近いかどうかです。近ければ既製のサービス、遠ければ自社開発を検討する。機能や値段を比べるのは、その後です。

既製のCRMは、多くの会社に共通する「お客様の会社と担当者を登録し、商談を記録し、次の連絡を予定する」という流れを前提に作られています。この流れで仕事が回っている会社なら、既製のサービスはとてもよくできています。

仕事の単位が「現場」「物件」「契約」「ご相談」など業種に特有のものだと、話が変わります。既製の型に当てはめるたびに小さな無理が出て、その無理を毎日入力する人が背負うことになる。そうなると、半年もしないうちに誰も開かなくなることがあります。

どちらが上ということはありません。既製サービスは早く安く始められ、自社開発は自社のやり方に合わせられる。向き不向きがはっきりしているので、自社がどちら側にいるかさえ分かれば、あとはそれほど迷いません。

CRMという言葉は営業の管理の意味で使われることが多いですが、この記事では「お客様の情報とやり取りを会社として管理する仕組み」全般を指しています。

選ぶ前に、社内で3つのことを書き出しておく

サービスを比べ始める前に、「誰が」「どの場面で」「何を見たいか」を書き出しておくと、選ぶ基準がぶれません。これをせずに比較表を見始めると、機能の多さや画面の見た目に引っ張られます。

誰が使うのか

社長、営業、事務、現場。使う人ごとに、パソコンかスマホか、1日に何回開くかを書きます。

たとえば事務の方が、受話器を肩に挟んだままお客様の名前で検索する。営業の方が、次の訪問先へ向かう車の中で前回の商談メモを開く。同じ顧客管理でも、この2つの場面では合う画面がまったく違います。

どの場面で困っているのか

「担当者が休むと状況が分からない」「見積を出した後のフォローが抜ける」など、ここ数か月で実際に困った場面を挙げます。場面が具体的なほど、必要な機能も絞れます。

何とつなげたいのか

顧客管理だけで完結させるのか、見積や請求、問い合わせフォーム、公式LINEとつなげたいのか。つなげたいものが多いほど、既製サービスの組み合わせでは手間が増えます。

既製サービスか自社開発かを決める判断軸

迷ったときは、次の表の判断軸で自社がどちらに寄っているかを確かめてください。左の列に当てはまるものが多いほど既製サービス、右が多いほど自社開発が向いています。

判断軸既製サービスが向く自社開発が向く
管理の単位会社・担当者・商談現場・物件・案件など独自
仕事の流れ一般的な営業の流れ業種や自社に特有
ほかの業務とのつながり顧客管理だけで足りる見積・請求・LINEまで一緒に
使う人パソコンに慣れた人が中心現場やスマホ中心の人も多い
始めたい時期すぐに使いたい数か月かけてでも合うものを

この表で両方に同じくらい当てはまる場合は、まず既製サービスを試すほうが損は少ないです。試して合わなかった点が、そのまま自社開発の要件になるからです。

判断軸の中で特に重く見てほしいのは「使う人」です。どれだけ機能がそろっていても、入力する人が面倒に感じれば情報は集まらず、検索しても何も出てこない仕組みに月額を払い続けることになります。

ポイント

費用の比べ方は「月額×使う年数」と「開発費+保守」で見るのが基本です。ただ、数字だけで決めると、入力の手間という見えないコストを見落とします。毎日入力する人が何分余計にかかるかも、判断の材料に入れてください。

既製の顧客管理サービスが向く会社・向かない会社

既製サービスが向くのは、営業の流れが一般的で、顧客管理を単独で使えれば足りる会社です。すぐに使い始められ、機能の追加や不具合の対応はサービス側が続けてくれます。

既製サービスが向いている会社

  • お客様は会社や個人で、商談ごとに管理すれば足りる
  • 営業担当が数人いて、案件の取り合いや引き継ぎで困っている
  • 見積や請求は別のソフトで回っていて、困っていない
  • 使う人の多くがパソコンで仕事をしている
  • まずは早く始めて、使いながら考えたい

既製サービスだと苦しくなりやすい会社

  • 1件のお客様の下に、現場や物件がいくつもぶら下がる
  • お客様とのやり取りの多くが公式LINEで、それを記録に残したい
  • 業界特有の書類や手続きが、顧客管理と強くつながっている
  • 現場の方がスマホで入力する場面が多い
  • 既製サービスの項目名を、毎回頭の中で読み替えて使っている

最後の「読み替え」は、気づきにくいけれど大事なサインです。たとえば「商談」の欄に現場名を入れ、「フェーズ」の欄で工事の進み具合を管理している。最初は工夫で乗り切れますが、新しく入った人に説明するたびに「ここは実はこういう意味で」という注釈が増えていきます。

既製サービスには、設定で項目を足せるものも多くあります。項目を足すくらいで合うなら、それで十分です。画面の流れや管理の単位そのものを変えたくなったら、既製の範囲を超えていると考えてください。

自社開発が向くのは、管理の単位と流れが独自で、ほかの業務とつなげたい場合

自社開発が向くのは、管理の単位や仕事の流れが自社に特有で、顧客管理を見積・請求・LINEなどほかの業務とつなげたい場合です。必要な機能だけを、自社の言葉で作れます。

自社開発というと大がかりに聞こえますが、中小企業向けなら「自社の業務に必要な画面が数枚あるだけ」の小さなシステムで足りることが多いです。全部入りの既製サービスより、画面がシンプルになることも珍しくありません。

たとえば、問い合わせが公式LINEから来て、そのやり取りをお客様ごとに残し、担当者に通知し、管理画面で一覧にしたい。こうした組み合わせは、既製サービスを複数つなぐより、1つの仕組みとして作ったほうが使う人にとって分かりやすくなることがあります。

自社開発を選ぶときの注意

作った後の保守を誰がするのかは、最初に決めておきます。既製サービスなら提供元が続けてくれる改修や不具合の対応を、自社開発では開発会社と一緒に続けていく必要があります。保守の考え方は保守・運用の記事にまとめています。

LaughRallyの事例

FP事務所向けに、事務所専用のAIシステムを作りました。AIチャット、通知、お客様とのやり取りの一覧、管理画面をそろえています。

外構工事の会社では、現場台帳を中心に見積・発注・請求を一元管理し、公式LINEと連携させた仕組みを作りました(初期費用78万円)。どちらも、既製の顧客管理の型に当てはめにくい業務の例です。

試用期間は「実際のデータで、実際に使う人が」触ってみる

既製サービスの試用期間は、機能を眺める時間にせず、本番に近い使い方を試す時間にしてください。社長がひとりで画面を見て「良さそう」と決めるのが、いちばん多い失敗のもとです。

  1. 試す業務を決める「電話を受けたら履歴を見る」「週に1回、次の連絡先を確認する」など、毎日・毎週やる場面を2〜3個決めます。
  2. 実際のデータを入れる今のお客様のデータを数十件、実際に入れてみます。サンプルのデータでは、自社の情報が収まるかが分かりません。
  3. 入力する人に使ってもらう事務の方や営業の方、現場の方に、普段の仕事の中で使ってもらいます。
  4. 困った点をその場で書き留める「この項目が見つからない」「スマホだと押しにくい」など、小さな不満を集めます。
  5. データを取り出せるか確かめるやめるときや乗り換えるときに、データを一括で取り出せるかを確認します。

たとえば営業3人と事務1人の会社なら、試す期間のうち最初の数日で全員が同じ操作をしてみて、残りの期間は普段どおりの仕事の中で使う、というくらいの分け方が現実的です。

試用の最後には、使った人に「このまま使い続けたいか」を率直に聞いてみてください。「慣れれば使える」という答えが多いなら前向きに考えていい。「前のほうが楽だった」という声が多いなら、合っていない可能性が高いです。

注意

試用期間の終わりが近づいてから慌てて触っても、判断の材料は集まりません。始める日に「いつ誰が何を試すか」を決めておくと、短い期間でも中身のある試用になります。

顧客管理システム選びでよくある失敗

失敗の多くは、道具の良し悪しより選び方と始め方に原因があります。よく見かけるものを挙げておきます。

機能の多さで選んで、誰も使わない

比較表で丸の多いサービスを選んだものの、画面が複雑で、結局は一部の人しか開かない。使わない機能が多いほど、目当ての画面にたどり着くまでのクリックも増えます。

営業担当は毎日使っているのに、電話を受ける事務の方は画面の開き方も知らない。こういう状態はよく見かけます。これでは、お客様からの電話にすぐ答えられない状態は変わりません。

入力のルールを決めずに始める

同じお客様が別々の書き方で登録され、検索しても出てこない。Excel時代と同じ問題が、新しいシステムの中で起きてしまいます。会社名の書き方や、どの時点で何を入力するかは、始める前に決めておきます。

自社開発で最初から全部を作ろうとする

思いつく要望を全部入れて作り始めると、完成までが長くなる。その間に、現場のやり方のほうが変わってしまうこともあります。いちばん困っている業務から作り、使われてから広げるほうが、結果として早く形になります。

導入した後の担当者を決めていない

項目を足したい、使い方が分からない。こうした相談の受け先がないと、小さな不満がたまって使われなくなります。社内に1人、窓口になる人を決めておくだけでずいぶん違います。

Excelと二重で入力し続ける

「念のため」と古いExcelにも書き続けると、入力の手間が倍になり、どちらかが更新されなくなります。移行の日を決めて切り替えるのが結局いちばん楽です。Excelからの移り方はExcelの顧客管理が限界になるサインで詳しく書きました。

費用の目安と進め方

自社開発の顧客管理システムは、LaughRallyでは50万円からが目安で、期間は1〜3か月です。既製サービスで足りる会社に無理に開発をすすめることはしません。

作る場合は、まず1つの業務を小さく作り、途中で動く画面を見ていただきながら進めます。使われることを確かめてから、見積や請求、LINE連携などに広げていきます。

途中の確認には、社長だけでなく、実際に入力する事務の方や営業の方にも入ってもらいます。そこで出た「ここが押しにくい」「この項目は要らない」という声を、次の確認までに直していく。この繰り返しで、使われる画面に近づけていきます。

既製サービスを使いながら、転記やデータの受け渡しの1か所だけを自動化する、というやり方もあります。この規模なら3万〜5万円、1〜2週間ほどが目安です。導入後の使い方の見直しや小さな改修は、月額の伴走支援(月5万〜15万円)でお手伝いしています。

既製か自社開発かを決めきれないときは、60分・オンラインの無料の業務診断で、今の業務の流れを一緒に整理します。自動化できる業務を一覧にしてお渡しし、売り込みはしません。費用の感覚を先につかみたい場合は見積もりシミュレーターも使えます。