見積書づくりの時間はどこで消えているか
見積書の作成に時間がかかる原因は、たいてい「探す」「整える」「書き写す」のどれかです。どれがいちばん重いかを先に分けておけば、手を付ける順番は自然に決まります。
たとえば、営業を兼ねる社長が夕方に事務所へ戻り、前回の似た案件のExcelを開いて品名と数量を書き換える。単価は仕入先から届いたPDFの価格表を横に開いて打ち込む。
受注が決まったら、翌日に同じ内容を発注書のExcelにも入れ直す。よくある流れですが、この中には性質の違う作業が混ざっています。
| 作業 | 中身 | 向いている対策 |
|---|---|---|
| 探す | 過去の見積や価格表から品名・単価を探す | 品目マスタを作る |
| 整える | 宛名、日付、番号、税の計算、体裁の調整 | 書式と計算を固定する |
| 書き写す | 見積の内容を発注書・請求書に打ち直す | 見積・発注・請求をつなぐ |
| 見直す | 金額や品名の間違いがないか確かめる | 入力を1回にして間違いの元を減らす |
探す時間が長い会社は品目の整理から、書き写しが多い会社はつなぎ込みから始めるのが近道です。全部重いなら、次の段階1から順に進めれば迷いません。
ポイント
1週間だけ、見積書を作るたびに「何にどれくらい時間がかかったか」をメモしてみてください。「見積が面倒」という感覚だけで話すより、直す場所がずっと具体的になります。
段階1 書式と見積番号をそろえる
最初にやるべきなのは、見積書の書式を1つに決めて、見積番号の付け方をそろえることです。お金はほとんどかからず、後の自動化の土台になります。
担当者ごとに違うExcelを使っていると、どんな仕組みを入れても例外だらけになります。Aさんは税込で書き、Bさんは税抜で書く。
片方は「一式」でまとめ、もう片方は明細を細かく並べる。このばらつきを残したままシステムに移すと、移行のときに古いファイルを1つずつ直すことになり、かえって高くつくんです。
そろえておきたい項目
- 見積書の書式(ロゴ、宛名、有効期限、備考欄の位置)
- 見積番号の付け方(年月と連番など、誰が付けても重ならない形)
- 税込・税抜の書き方と、端数の扱い
- 「一式」で書く場合と明細で書く場合の線引き
- ファイルの保存場所と、ファイル名の付け方
番号がそろうだけで「あの見積どれだっけ」はかなり減ります。お客様から電話で「先月いただいた見積の件ですが」と言われたとき、番号を聞いてすぐ開けるか、共有フォルダを片っ端から探すか。この差は毎日のことなので効いてきます。
有効期限や支払い条件の書き方も、このときにそろえておくと後が楽です。「見積有効期限:発行日から1か月」のような決まり文句を書式に入れておけば、毎回考える必要がなくなります。
この段階は、社内で話し合えば決められることがほとんどです。外に頼む前に、まず手元のExcelを1つの形に寄せてみてください。
段階2 品目マスタを作って「選ぶだけ」にする
よく使う品目と単価を1か所の一覧(品目マスタ)にまとめ、見積書では一覧から選ぶだけにします。打ち間違いと探す時間の両方が減る段階です。
品目マスタといっても、品名、型番、単位、仕入単価、販売単価、仕入先を1行ずつ並べた表のことです。Excelのままでも、品目のシートを別に作って見積書から参照する形にすれば一歩進みます。
マスタづくりで止まりやすいところ
全部の品目を最初から登録しようとすると、そこで手が止まります。過去の見積書から、よく出てくる品目だけを先に拾うほうが現実的です。めったに出ない品目は、見積のときに手で入力できる余地を残しておけば困りません。
工事や施工のように、材料と手間賃を組み合わせる業種では「セット品目」を作っておくと便利です。たとえば「フェンス設置一式」を選ぶと、支柱、パネル、施工費の明細がまとめて入る形です。ベテランの頭の中にしかなかった組み合わせが、新人でも使えるようになります。
取引先ごとに単価が違う場合
同じ品目でも、長く付き合いのある元請けには別の単価を出している、という会社もあります。この場合は、品目マスタに「標準単価」を持たせつつ、取引先ごとの単価を別の表で上書きできる形にしておくと混乱しません。Excelで表現しようとすると一気に複雑になるので、ここが業務システムを考え始める目安の1つです。
注意
マスタを作っても、仕入れ値が変わったときに直す人が決まっていないと、しばらくすると誰も信用しなくなります。「単価の更新は誰が、いつやるか」をマスタと一緒に決めておいてください。
段階3 見積から発注・請求までをつなぐ
見積が決まったら、その内容から発注書と請求書の下書きがすぐできる形にします。ここまで進めると、書き写す作業そのものがなくなります。
この段階は、Excelより小さな業務システムのほうが向いています。Excelで無理につなぐと、関数やマクロが入り組んで、作った人しか直せない状態になりがちです。その人が辞めたら止まる仕組みは、正直おすすめしません。
- 案件を1つ作るお客様名、現場名、担当者を登録します。以後の書類はすべてこの案件にひもづけます。
- 見積を作る品目マスタから選んで数量を入れるだけ。番号と日付は自動で付きます。
- 受注したら発注書を出す見積の明細から、仕入先ごとに発注書の下書きを作ります。
- 完了したら請求書を出す見積の金額をもとに請求書を作り、追加工事や値引きがあればそこで直します。
- 入金を記録する入金が確認できたら案件を完了にして、未入金の案件だけが一覧に残るようにします。
案件ごとに書類がまとまると、「この現場、請求したっけ」という確認が一覧を見るだけで済みます。請求漏れに気づきやすくなるのも、この段階のうれしいところです。
着手金と残金に分けて請求する、月ごとに出来高で請求する、といった分割の請求がある業種では、1つの見積から複数の請求書が出る形にしておく必要があります。ここは会社ごとに違いが大きいので、最初の打ち合わせで必ず確認しておきたい部分です。
LaughRallyの事例
事務員さんのいない外構工事の会社で、現場台帳を中心に見積・発注・請求を一元管理し、公式LINEとも連携させた仕組みを作りました。初期費用は78万円です。案件の単位を「現場」にして、書類をその下にまとめる形にしています。
会計ソフトはそのまま使えることが多い
見積書を自動化するときに、会計ソフトを入れ替える必要はほとんどありません。見積と案件の管理を新しくして、請求や売上のデータを会計ソフトに取り込める形で渡すのが現実的です。
会計ソフトは帳簿をつけるための道具で、見積の明細や案件の進み具合を細かく追うのは得意ではありません。反対に、見積の仕組みで帳簿まで面倒を見ようとすると、税理士さんとのやり取りが変わって混乱しがちです。
| 比べる点 | 見積・案件の仕組み | 会計ソフト |
|---|---|---|
| 得意なこと | 品目、明細、案件の進み具合 | 帳簿、決算、税の計算 |
| 扱うもの | 見積・発注・請求の書類 | 売上・仕入・入金の記録 |
| 主に使う人 | 社長、営業、現場 | 経理、税理士 |
つなぎ方は、使っている会計ソフトが何に対応しているかで変わります。CSVファイルの取り込みに対応しているソフトなら、請求データをその形で書き出すだけで済むこともあります。会計ソフト側の仕様は、ソフトの公式サイトや税理士さんに確認してから決めてください。
ポイント
請求書を会計ソフトで発行している会社なら、請求書の発行だけ会計ソフトに残し、見積と発注を新しい仕組みに任せる分け方もあります。どこで線を引くかは、経理を誰が担当しているかで決めるとうまくいきます。
見積書の自動化で失敗しやすい点
失敗の多くは、仕組みの出来より「現場の使い方と合っていない」ことから起きます。よくあるつまずきは決まっているので、先に知っておけばたいてい避けられるものです。
例外を全部仕組みに入れようとする
年に数回しかない特殊な見積まで自動化しようとすると、画面が複雑になって、毎日の見積が逆に遅くなる。例外は手入力で逃がす前提にしておいたほうが、結局は使われる仕組みになります。
決める人と使う人が違う
社長が仕様を決めて、実際に見積を作るのは営業の方、という会社はよくあります。使う人が一度も画面を触らないまま完成すると、「前のExcelのほうが早い」と言われて終わりがちです。
過去データの移行を後回しにする
新しい仕組みに過去の見積が入っていないと、結局古いExcelも開くことになります。全部を移す必要はありません。直近の分と、よく参照する取引先の分だけでも移しておくと安心です。
外出先から見られない
現場に出ることが多い業種では、事務所のパソコンでしか見積を確認できないと不便です。現場でお客様に聞かれたとき、スマホで金額を見られるかどうか。最初に決めておきたい条件の1つです。
古いやり方を並行して続ける
新しい仕組みを入れたあとも「念のため」とExcelの台帳を残すと、入力が2回になって前より手間が増えます。切り替える日を決めて、その日からは新しい仕組みだけを正とする。最初の1か月は不安だと思いますが、ここを決めないと定着しません。
見積書の自動化でつまずく会社を見ていると、技術より段取りの問題がほとんどだと感じます。作る前に「誰が、いつから、何を使うか」を決めておくだけで、結果はかなり変わります。
どの段階まで進めるかの決め方
全部の会社が段階3まで進む必要はありません。見積の件数、書類を作る人の数、転記で起きているミスの重さで、止める段階を決めれば十分です。
たとえば、社長1人で月に数件の見積を出している会社なら、段階2までで困りごとはほぼ消えます。営業が複数いて、見積を出したあとに現場や仕入先とのやり取りが続く会社なら、段階3まで進めたほうが手間とミスの両方が減ります。
- 見積を作る人が2人以上いる
- 受注後に発注書を出す仕入先が複数ある
- 請求漏れや金額の打ち間違いが、過去に実際に起きている
- 外出先から見積や案件の状況を確認したい
- 「あの見積どこ?」と社内で聞かれることがよくある
当てはまる項目が多いほど、段階3の業務システムを考える価値があります。1つか2つなら、段階1と2を先にやってみて、それでも残る困りごとを見てから判断しても遅くありません。
費用の目安と進め方
品目シートからの参照や転記1か所の自動化など、段階2までの範囲なら1業務の自動化として3万〜5万円、期間は1〜2週間が目安です。段階3の業務システムにする場合は50万円からで、1〜3か月ほどかかります。
金額が上下するのは、使う人の数、スマホ対応の有無、今あるデータの移行量、会計ソフトとのつなぎ方あたりです。最初から全部を作るより、見積書の作成だけを小さく試し、使われたら発注・請求に広げるほうが失敗は少ないと考えています。
開発中は途中で動く画面をお見せするので、現場の方に触ってもらいながら直していけます。作ったあとも見直しや追加を続けたい場合は、月5万〜15万円の伴走支援もあります。
どの段階から始めるのがよいかは、今お使いの見積書のExcelを見せてもらえれば、たいてい1回の打ち合わせで分かります。60分・オンラインの無料の業務診断では、自動化できそうな作業を一覧にしてお渡ししています。
売り込みはしません。おおよその金額を先に知りたいときは見積もりシミュレーターも使えます。
見積の先にある作業が気になる場合は、請求書の発行と入金確認を自動化する方法や転記・二重入力をなくす方法も合わせてどうぞ。