転記・二重入力はなぜなくならないのか

転記や二重入力がなくならないのは、ひとつひとつの作業が「数分で終わる小さな手間」に見えるからです。毎日の積み重ねで大きな時間になっていても、誰もまとめて数えていないので、後回しにされ続けます。

たとえば、FAXで届いた注文書を見ながら、事務の方が販売管理のExcelに品名と数量を打ち込む。同じ内容を出荷の指示書にも書き、月末には請求書のExcelにもう一度入れる。1回ごとは短い作業でも、注文が毎日あれば、同じ情報を月に何十回も打ち直していることになります。

転記にはもう1つ厄介な点があります。打ち間違いが起きたとき、どこで間違えたのかを探すのに時間がかかることです。

注文書では「10」だったのに請求書では「100」になっている。その原因を追いかける時間は、転記そのものより長くなりがちです。

ポイント

転記をなくす効果は、入力の時間が減ることと、間違いを探す時間が減ることの2つです。後者のほうが大きいと感じる会社も少なくありません。

転記の見つけ方

転記を見つけるいちばん確実な方法は、1つの書類やデータが、受け取ってから終わるまでに誰の手を通るかを追いかけることです。途中で「同じ内容をもう一度打っている」場所が転記です。

頭の中で考えるより、実際の書類を1枚手に取って追うほうが見つかります。先週届いた注文書を1枚選び、それが請求書になって入金されるまでに、どのファイルやシステムに何回入力されたかを数えてみてください。

転記が起きやすい場所

  • 紙やPDFで届いた注文書を、Excelや販売管理に入力している
  • 見積書の内容を、発注書と請求書にもう一度入力している
  • 現場の日報や作業報告を、事務所で集計表に写している
  • 問い合わせフォームやメールの内容を、顧客台帳に貼り付けている
  • 同じ顧客の住所や電話番号が、複数のファイルに別々に入っている
  • 会計ソフトに入れる数字を、別のExcelから拾って打ち込んでいる

当てはまるものに印を付けていくと、自分の会社の転記がどこに集まっているかが見えてきます。たいていは、社外から情報が入ってくる入口と、社外へ書類を出す出口のあたりに固まっています。

見つけにくいのは、本人が転記だと思っていない作業です。「確認のためにメモしている」「上司に報告するために表にまとめ直している」といった作業も、中身は同じ情報の打ち直しです。作業している方に「この数字、どこから持ってきていますか」と聞いてみると、思わぬところで見つかります。

業務フローの書き出し方

転記をなくす方法を選ぶ前に、今の業務の流れを紙1枚に書き出します。きれいな図にする必要はなく、誰が、何を見て、どこに入力しているかが分かれば十分です。

  1. 対象の業務を1つ決める「受注から請求まで」のように、始まりと終わりがはっきりした業務を1つ選びます。
  2. 登場する人を並べる社長、事務の方、現場の方など、その業務に関わる人を横に並べて書きます。
  3. 情報の流れを矢印で書く紙、メール、電話、Excelなど、情報が何に乗って誰から誰へ渡るかを矢印でつなぎます。
  4. 入力している場所に印を付ける人がキーボードや手書きで入力している場所に丸を付けます。同じ内容に2つ以上丸が付いたら転記です。
  5. 担当の方に見てもらう書き出した流れを、実際に作業している方に確認してもらいます。社長が思っている流れと違うことは本当によくあります。

最後の確認は飛ばさないでください。「その作業、もうやってないですよ」「実はそのあと別のファイルにも写してます」といった話が出てくるのは、たいていこのときです。

書き出した紙は、外部に相談するときにもそのまま使えます。口で説明するより早く正確に伝わるので、打ち合わせの時間も短くなります。

転記をなくすための4つの方法

転記をなくす方法は、大きく分けて4つです。どれを選ぶかは、情報がどこから来て、どこへ行くかで決まります。

方法向いている場面気をつけること
入力を1回にして参照する社内で同じ情報を何度も使うどこが元のデータかを決める
書類を読み取る紙やPDFで届く注文書・伝票読み取り結果を人が確認する
受付で形をそろえる問い合わせや注文の受付お客様に手間をかけさせない
サービス同士をつなぐ会計ソフトや顧客管理の間つなげられるかを事前に確認

入力を1回にして、あとは参照する

同じ情報を複数の場所に持たず、1か所に入れたものを他から参照する形にします。顧客の住所を顧客一覧にだけ入れ、見積書や請求書はそこから引いてくる、といった形です。Excelでもある程度できますが、使う人が増えると業務システムのほうが確実です。

この方法で最初に決めるべきなのは、「どこが元のデータか」です。顧客一覧とExcelの見積書の両方で住所を直せる状態だと、どちらが正しいのか分からなくなります。直すのは元の一覧だけ、と決めておくことが前提になります。

書類を読み取る

紙やPDFの注文書は、AIで読み取って文字にし、確認だけを人がする形にできます。どこまで正しく読めるかは書類しだいなので、実際の書類で試してから決めます。詳しくは紙やPDFの注文書をAIで読み取る方法に書きました。

受付の段階で形をそろえる

問い合わせや注文を、フォームや公式LINEで受け付ければ、最初から決まった形のデータになります。後から誰かが打ち直す必要がないので、転記そのものが発生しません。

電話での受付が多い会社でも、電話を受けた人がメモ用紙の代わりに決まった入力画面へ書き込むだけで、あとの転記はなくせます。受付の形をそろえるのは、仕組みというより習慣の問題でもあります。

サービス同士をつなぐ

会計ソフトや顧客管理のサービスなど、すでに使っているサービス同士をつなげて、データを自動で受け渡します。つなげられるかどうかはサービスによって違うので、まず各サービスが何に対応しているかを調べるところからです。

LaughRallyの事例

引越し会社のホームページと公式LINEで、最初のヒアリングを自動で行う仕組みを作りました。問い合わせの時点で聞く内容が決まった形で届くので、受付の段階で転記の元を断つ考え方です。

どこから手を付けるか、優先順位の付け方

回数が多く、間違えたときに困る転記から手を付けるのがいちばんです。月に1回の作業より毎日の作業、社内で完結する作業より、取引先やお客様に出す書類に関わる作業のほうが効果を実感しやすくなります。

書き出した業務フローの丸印それぞれについて、次の観点で印を付けてみてください。点数を細かく付ける必要はなく、「多い・少ない」「困る・困らない」くらいの粗さで十分です。

観点優先度が高い優先度が低い
回数毎日、毎回ある月に1回、年に数回
間違えたときの影響請求や納品の金額が狂う社内の資料が少しずれる
担当者特定の1人しかできない誰でも代われる
作業の決まり方手順がほぼ毎回同じ毎回判断が必要

「特定の1人しかできない」作業は、見落とされやすい候補です。その方が休んだ日に業務が止まるなら、時間の長さに関係なく優先して手を付ける価値があります。

たとえば、毎朝届く注文書の入力と、月末の請求書づくりの両方に転記があるなら、先に手を付けるのは毎朝の入力です。毎日のことなので効果をすぐ実感でき、現場の方の「本当に楽になるのか」という疑いも早く解けます。月末の請求は、その様子を見てから次に回せば十分です。

注意

毎回判断が必要な作業を最初の対象にすると、仕組みに例外が増えて完成が遅れます。最初は、手順がほぼ決まっていて回数の多い転記を1つだけ選んでください。

現場の抵抗にどう向き合うか

転記をなくす取り組みが止まる理由で多いのは、技術より現場の抵抗です。抵抗は悪いものとは限りません。今のやり方にそれなりの理由があることを教えてくれる場合もあります。

長年Excelで受注を管理してきたベテランの事務の方にとって、新しい画面は「自分の仕事を取られる」ものに見えることがあります。慣れたやり方なら目をつぶってもできるのに、新しい仕組みでは一から覚え直しです。最初の数日は前より遅くなるので、「前のほうが早かった」と言われるのも無理はありません。

抵抗を減らすためにできること

  • 作業している方に、業務フローの書き出しから入ってもらう
  • 「楽になる作業」と「新しく増える作業」を正直に伝える
  • いきなり全部を変えず、転記1か所だけから始める
  • 作っている途中の画面を実際に触ってもらい、意見を反映する
  • 切り替えの日を決め、それまでは前のやり方も残しておく

意外と効くのは、ベテランの方に「この仕組みの先生役」になってもらうことです。今の業務をいちばん知っている人の意見で画面が直っていくと、自分の仕組みだと感じてもらえます。

もう1つは、浮いた時間を何に使ってほしいかを伝えることです。転記がなくなった分、お客様への電話を増やしてほしい、現場の段取りを手伝ってほしい。行き先がはっきりしていると、「自分の仕事が減らされる」という不安はかなり和らぎます。

逆に、社長が決めて上から渡すだけだと、出来のいい仕組みでも使われないまま終わることがあります。現場の方が一度も触らずに完成した画面は、どうしても「よそから来たもの」に見えてしまうんです。

Excelのままでどこまでできるか

社内で使う人が1〜2人で、扱う書類の種類も少ないなら、Excelのままでも転記はかなり減らせます。使う人や書類が増えてきたら、業務システムを考える時期です。

Excelでできるのは、顧客や品目の一覧を別のシートにまとめて、見積書や請求書から参照する形です。これだけでも、住所や単価を毎回打つ手間はなくなります。

限界が来るのは、複数の人が同じファイルを同時に開くようになったときです。誰かが開いていて保存できない、別の人が古いファイルをコピーして使っていた、といったことが起きはじめます。共有フォルダの中に「最新版」「最新版2」「最新版(修正)」が並びはじめたら、それが合図です。

状況向いている形
使う人が1〜2人、書類の種類が少ないExcelの参照で十分なことが多い
複数人が同時に入力する業務システムが向いている
外出先やスマホから入力したい業務システムが向いている

顧客の情報をExcelで管理している場合の見直し方は、Excelの顧客管理を見直す方法でも書いています。

費用の目安と進め方

転記1か所の自動化なら、1業務の自動化として3万〜5万円、1〜2週間が目安です。複数の書類や業務をまとめて1つの仕組みにする場合は、業務システムとして50万円からで、1〜3か月ほどかかります。

LaughRallyでは、まず1つの転記だけを小さく自動化して、本当に使われるかを確かめてもらっています。使われたら次の転記に広げ、使われなかったらそこで止められる。

この進め方なら、大きなお金をかける前に、現場に合うかどうかが分かります。開発中は途中で動く画面をお見せするので、現場の方の意見をその都度反映できます。

どこに転記があるか自分たちだけでは洗い出しにくい場合は、60分・オンラインの無料の業務診断で一緒に整理します。自動化できる作業を一覧にしてお渡しするだけで、売り込みはしません。

費用の感覚を先に知りたいときは見積もりシミュレーターも使えます。見積や請求の転記が気になる場合は、見積書の作成を自動化する方法も合わせて読んでみてください。