中小企業のAI活用は、どの作業から始めればいいか

最初に選ぶべきなのは、毎日か毎週同じ形で繰り返していて、多少の間違いがあっても人が確認すれば済む作業です。問い合わせへの返信の下書き、会議メモの要約、紙の書類の読み取りなどがこれに当たります。

AIを業務に入れたいという相談で、私たちが最初に聞くのは「毎日いちばん時間を取られている作業は何ですか」という質問です。どのAIを使うか、どのサービスを契約するかは、その答えを聞いてからで遅くありません。

道具から入ると、たいてい使われなくなります。社長が話題のAIサービスを契約して、社員に「何かに使ってみて」と渡す。最初の1週間は何人か触ってみるものの、ひと月後には誰も開いていない。

こういう話は本当によく聞きます。使う場面が決まっていないと、忙しい現場の方ほど手が伸びないんです。

反対に、作業が先に決まっていれば話は早いです。「毎朝届く20件ほどの問い合わせメールに返信するのに、事務の方が1時間かけている」と分かっていれば、その返信の下書きをAIに作らせる、という具体的な試し方が決まります。

候補の作業は1つに絞ってください。同時にいくつも始めると、どれが効いたのか分からなくなり、現場の負担も増えます。

1つうまくいけば、次に広げるときに社内の協力も得やすくなります。最初の1つは、地味でも確実に手間が減る作業がいいです。

AIに向いている作業の条件

AIに向いている作業には、繰り返しがあること、材料がすでに文字や画像になっていること、人が最後に確認できることの3つがそろっています。どれか1つでも欠けると、手間が減らなかったり、間違いに気づけなかったりします。

  • 毎日か毎週、同じ形で繰り返している
  • 材料(メール、書類、問い合わせ文、メモ)がすでに文字や画像になっている
  • 出てきた結果を、人が見れば正しいかどうか判断できる
  • 多少の間違いがあっても、確認の段階で直せば済む
  • やり方がある程度決まっていて、説明できる

最後の項目は見落としがちです。ベテランの事務員さんが「なんとなく」でやっている作業は、そのままではAIに任せにくい。やり方を言葉にできるかどうかが、意外と大きな分かれ目になります。

たとえば「このお客様には少し丁寧めに返す」という判断も、理由を聞くと「前に一度クレームがあったから」と出てきます。こうした理由を1行ずつメモにしておくと、AIに渡す指示の材料になります。

条件に当てはまる作業を、具体的な例で並べてみます。

作業AIがやること人がやること
問い合わせメールの返信返信の下書きを作る内容を確認して送る
会議や打ち合わせのメモ要点と決定事項をまとめる抜けがないか見る
紙の注文書や名刺文字を読み取って表にする数字や名前を見直す
社内のよくある質問規程やマニュアルから答える答えが古くないか確かめる
見積や提案の文章過去の文面をもとに案を作る金額と条件を最終判断する

向いているかを見分ける簡単な質問

迷ったら、その作業を「新しく入ったアルバイトの方に、手順書を渡して任せられるか」を考えてみてください。手順書があれば任せられて、最後に先輩が目を通せば済む作業なら、AIにも向いています。反対に、長年の勘や取引先との関係で判断している作業は、まだAIに任せる段階ではありません。

どの例も、最後に人が関わっています。AIは下書きや下準備を速くする道具として使うと、無理なく効果が出ます。

最初は避けたい作業

お金の計算を最終確定させる作業や、お客様に直接届く回答を人の確認なしで出す作業は、最初の題材には向きません。間違えたときの影響が大きく、AIへの信頼もそこで一気に失われがちだからです。

AIは、もっともらしい文章で間違ったことを書くことがあります。請求金額が1桁違っていたり、お客様に存在しない割引を案内してしまったりすると、取り返すのに手間がかかります。そうなると、現場では「やっぱりAIは使えない」という空気になって、ほかの作業でも使われなくなってしまいます。

注意

最初の題材で避けたいのは、請求や給与など金額を確定させる作業、契約や法律に関わる判断、お客様への回答を人の確認なしで送る作業、個人情報を大量に扱う作業です。慣れてきてからでも、こうした作業には必ず人の確認を残してください。

お客様からのクレーム対応も、最初の題材には向きません。言葉の選び方1つで相手の受け取り方が変わるので、AIの下書きを参考にするくらいならともかく、任せるのは慎重にしたほうがいいです。

年に数回しか発生しない作業も、最初は外したほうがいいと思います。準備に手間をかけても、効果を感じる機会が少ないからです。

お客様向けより、社内向けから始める理由

AIチャットなどを入れるなら、最初は社内向けから始めるのが安全です。社内で使えば、間違いがあってもお客様に迷惑がかからず、どれくらい正確か、実際に使われるかを落ち着いて確かめられます。

たとえば、社内規程や作業マニュアルをもとに、従業員の質問にAIが答える仕組みを作ったとします。新人さんが「有給の申請はどうするんですか」と聞いて、AIが答える。

答えがずれていれば、その場で先輩が直せます。何週間か使ってみると、どんな質問が多いのか、どこで間違えやすいのかが見えてきます。

そこで手応えがあれば、お客様向けの案内やチャットに広げます。社内で集めた「よくある質問」と「間違えやすい答え」は、そのままお客様向けの準備に使えます。

LaughRallyの事例

FP事務所向けに、事務所専用のAIシステムを開発しました。AIチャット、通知、やり取りの一覧、管理画面をそろえた形です。やり取りが一覧に残るので、事務所の方があとから中身を確かめられます。

社内で試している間は、間違いを責めない雰囲気も欠かせません。「AIがこう答えたけど違っていた」という報告が気軽に上がってくるほうが、どこを直せばいいかが早く分かります。

士業や相談業は、最初のやり取りに時間を取られがちな分野です。AIが受けた内容を人がまとめて確認できる形にしておけば、人の目を通す工程を残したままAIを使えます。

AIに入れる情報の扱いで気をつけること

お客様の個人情報や社外秘の資料をAIに入れる前に、使うサービスの設定と利用規約を確認してください。入力した内容を学習に使わない設定や法人向けのプランがあるかどうかはサービスやプランごとに違うので、公式の説明で確かめてから使い始めます。

社内でルールがないまま使い始めると、現場の方は「これは入れていいのかな」と毎回迷います。迷うと使わなくなるか、逆に何でも入れてしまうかのどちらかになりがちです。最初に簡単な線引きを決めておくと、安心して使えます。

  • 使うAIサービスと、契約しているプランを社内で1つに決めた
  • 入力した内容が学習に使われるかどうかを設定画面で確認した
  • お客様の氏名や連絡先を入れてよいかどうかを決めた
  • 取引先との契約で、情報の扱いに制限がないか確認した
  • 迷ったときに誰に聞けばよいかを決めた

「名前を伏せれば入れてよい」というルールもよく使われます。お客様の名前を「A様」に置き換えてから相談文をAIに入れれば、返信の下書きは作れますし、誰の話かは分かりません。こうした小さな工夫を、現場で使える形でルールに書いておくと迷いが減ります。

ルールの細かい作り方はChatGPTやClaudeを業務で使うときの社内ルールの記事にまとめています。最初はA4で1枚くらいの決めごとで十分です。

AIを使うときのリスクを社員の方にひと通り知っておいてもらいたい場合は、私たちが運営しているAIセキュリティのeラーニング「AI Security Lab」も参考にしてください。

社内で誰が進めるかを決めておく

AIの導入は、社長が1人で旗を振るより、実際にその作業をしている現場の方を担当に入れたほうがうまくいきます。作業の細かい手順や、どこで間違いやすいかを知っているのは現場の方だからです。

たとえば問い合わせメールの返信をAIで下書きするなら、普段その返信を書いている事務の方に、最初の試しから関わってもらいます。「この言い回しはうちでは使わない」「この種類の問い合わせは必ず社長に回す」といった判断は、現場の方にしかできません。

担当を決めるときに気をつけたいのは、いつもの仕事に上乗せで丸投げしないことです。試している間は確認の手間が増えるので、最初の数週間はほかの仕事を少し減らすなど、時間を空けておくと続きやすくなります。

役割誰が向いているか主にやること
決める人社長や部門の責任者対象の作業と予算、ルールを決める
試す人その作業を毎日している方実際に使い、良し悪しを伝える
相談先社外の開発会社など設定や仕組みづくりを手伝う

社内にITに詳しい人がいなくても、問題はありません。仕組みは外に頼めますが、業務の判断は社内にしかないので、試す人をきちんと決めておくことのほうが先です。

AIを入れた効果の測り方

効果を確かめるには、導入する前に、その作業に1回あたり何分かかっているかを測っておきます。導入後に同じように測れば、どれだけ変わったかが数字で分かります。

  1. 導入前の時間を測る対象の作業を1週間ほど、1回ごとにかかった時間と件数をメモします。ざっくりで構いません。
  2. 小さく試す1つの作業、1人か2人の担当者だけでAIを使ってみます。
  3. 導入後の時間を測る同じように時間と件数を記録し、確認や手直しにかかった時間も含めて比べます。
  4. 続けるか決める手間が減っていれば対象を広げ、変わらなければ別の作業に切り替えます。

3つ目の手順で、確認や手直しの時間を含めるのがコツです。AIが下書きを一瞬で作っても、直すのに前と同じだけ時間がかかっていたら意味がありません。

測るといっても、ストップウォッチで厳密に計る必要はありません。「今日の問い合わせ返信は12件で、だいたい50分」くらいのメモを、担当の方に1週間つけてもらえば十分です。大事なのは、導入前と導入後で同じ測り方をすることです。

時間だけでなく、現場の方の感想も聞いておきましょう。「前より楽になった」「ミスが減った気がする」「かえって面倒」。数字に出にくい部分も、続けるかどうかの判断材料になります。

ポイント

効果が小さければ、そこで止めて別の作業を試せばいい。最初から大きく投資しないのは、この「試して、だめなら替える」を気軽にできるようにしておくためです。

費用の目安と進め方

LaughRallyで1つの作業をAIで自動化する場合の目安は、3万〜5万円で1〜2週間です。社内向けのAIチャットや、FP事務所の事例のように管理画面つきの専用システムにする場合は、業務システムとして50万円から(1〜3か月)になります。

進め方は、まず1つの業務から小さく始めて、使われたら広げることもできます。開発する場合も、途中で動く画面を見せながら進めるので、途中で使い勝手を確かめられます。導入したあとに使い方の相談や改善を続けたい場合は、月5万〜15万円の伴走支援もあります。

どの作業から始めればいいか決めきれないときは、無料の業務診断(60分・オンライン)を使ってください。お話を伺って、AIや自動化で手間を減らせそうな業務を一覧にしてお渡しします。

売り込みはしません。金額の感触を先に知りたい場合は見積もりシミュレーターもあります。